ゾンビ映画製作回想録 第10回 | 地獄のゾンビ劇場 ~ZOMBIE THEATER~

地獄のゾンビ劇場 ~ZOMBIE THEATER~

「地獄の血みどろマッスルビルダー」監督・深沢真一によるホラー映画雑学&雑談ブログ!

「決意のシナリオ第一稿」

 

スプラッター・ゾンビ映画の決定版を撮ろう!

 

そう思い立ったのが90年代のある夏。

その年の暮れ、

遅々として進展しない企画のことは常に頭の片隅にあったものの、

暮れの忙しさの中、

私は忘年会で歌うカラオケの曲目や、

奥菜恵の事などを考えながら

会社員として日々慌ただしく過ごしていた。

 

暮れも押し詰まり、仕事納めの後、

例年通り私は帰省する彼女を駅まで見送ると、

自宅へ戻り自室の大掃除に取り掛かった。

 

大晦日一日かけて徹底的に片付けたマイルームで、

ホラー映画三昧の正月を過ごすのが、

例年の楽しみとなっていた。

 

しかしこの年の暮れに限り、

常に頭の中にある考えが居座り、

掃除などしつつも、

それは私の中で次第に膨らみ、

形を成していった。

 

そして時計の針が深夜12時を回り、

新年を迎えたその時、何かがはじけ、

私は大きな決心をした。

 

大きな仕事に取り掛かるための唯一の道を、

私は既に発見していた。

踏ん切りがつかなかっただけだったのだ。

 

私の決心とは、

 

1 長年勤めた会社を退職、製作の為の時間を作る。

  そして映画完成まで再就職はしない。

 

2 コツコツと貯めた銀行の積み立て預金150万円

  (結婚資金になるんだろうなあ、と思っていた)を、

  製作費とその期間の生活費に当てる。

 

3 父に頼み込み、空家の取り壊しをその年の夏以降まで延期し、

  カメラマン田中君の夏の長期休暇に合わせ、集中してロケを敢行。

 

4 役者には少額でもギャラを支給し、

  多少でも演技経験のある人材を確保する。

 

私は元旦から脚本の執筆に取り掛かった。

諸々の制約が一気に取れたことで、

自分でも信じられないほど軽やかに筆は進み、

正月2日には、下書きの状態だが第一稿が仕上がってしまった。

 

しかも2日で仕上げたとはいえ、

各登場人物のバックボーンまで詳しく設定し、

ネーミングにまで気を配った、

我ながら本格的な力作だった。

 

ちなみにネーミングは、大学時代の学籍名簿から、

発音しやすく、なおかつ響きの良い名前をリストアップして決めた。

 

これだけ仕事が速く進んだのは、

私の作業能力が飛躍的にアップした・・・・・わけではなく、

田中君との長い長いやり取りの中で、

「私は本当ならこうしたいのだ」

という考えが知らぬ間に私の中で形作られていたのだろう。

 

当然ながら、人物設定や物語の展開は、

私自身の案を採用。

私の案の方が優れているから、というわけではない。

自分で書き、撮る以上、

自分のエゴを通さなければ何の意味も無いからだ。

 

人物のバックボーンは、

以前あるシナリオコンクールに応募して落選した、

私の別の作品から流用した。

 

私はすぐさま田中君に電話で連絡した。

 

「おお、君か、あけましておめ」

「シナリオが完成したのだ!!!」

「へ?」

 

私は自分の決意と今後の計画を、意気揚揚と田中君に伝え、

すぐに清書した第一稿を送る事を約束した。

 

「楽しみに待っていたまえ!ふははははは!」

 

私は今までに無いほどのブ厚い紙束を封筒にねじ込むと、

自宅近くの郵便局へ走りポストへ放り込んだ。

 

同封した手紙には、田中君の意見も無視しないよう、

何か気付いた点があれば遠慮なく指摘してくれ、

と一筆書き添えておいた。

 

内容的には私の案を採用していたものの、

田中君の希望した通り大作に仕上がっている。

(私は50分程度、と見積もっていた)

 

しかも今回は田中案の時のような

製作環境の整わない中での実現性の低い大作化ではない。

ちゃんと時間も費用も確保した上でのスケール・アップだ。

 

田中君は喜んでくれるだろう。

大喜びだろう。

泣いて喜ぶかもしれない。

 

数日後、思ったより早く田中君からの返信が届いた。

そこには田中君の歓喜と祝福の言葉が、

 

・・・・・無かった。

 

彼の反応は意外なものだった。

 

 

 


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